2024年3月ログ

 AIが記事のタイトルを考えてくれるとかいう謎機能追加されてたけど、どこでどう使えばいいんだろうか。

書籍

エルンスト・ユンガー/相良守峯(訳)「大理石の断崖の上で」

 1955年、岩波書店。だいぶ前に和仁陽先生の授業でユンガーを原文で非常に丁寧に読んでいくというものがあり、以来読みかけの状態であったのだが、国立国会図書館デジタルコレクションに入架しているのを発見したのでこの機に読み通すことに。なお、NDLデジコレは白黒にするとスペックの低いタブレットでもクラッシュしにくくなる。ライフハック

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 (異論も色々見かけるものの)作中最大の脅威となる森の頭領(親分)とはヒトラーであるというのが一般的な解釈だろう。挿話の数々には明らかにワイマール共和国末の混乱を描いたものからユンガーの博物趣味の反映されたもの、さらにはっきりとは何を示しているのか測りかねるものもあり、隠喩するところの主題に留まらない難解さを感じる。後半の戦闘シーンに至ると一層よく分からない。
 訳者解説はユンガーをナチスとの対峙をもってヒューマニスト(?)と称賛していたり、未だ評価の定まらぬ作家であるという印象の現代から見るとどうにも単純化しすぎているきらいがある。あるいは当時の日本で手に入る情報の限界によるものなのか。あと全然関係ないけど「魔術的リアリズム」という訳語は中南米文学ブーム以前に既に成立していたのだな、と気付いた。

神山典之(写真)/奈良本辰也(文)「萩・津和野」

 1973年、朝日新聞社。同じく国会図書館デジタルコレクション。

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萩は未踏なのでコメントを保留するが、津和野は直近で一度訪れており、当時との比較は興味深かった。後半の随想文を読んでいると、養老館の大修復や津和野駅前の整備(付録の地図を見るに駅はどこかで移転している)、安野光雅美術館の開館等を考慮しても当時の方が活気があったのではないかと思える。どうにも寂しい心持ちになる。これについては私の勘違いであってくれればとても嬉しい。ちなみに著者が景観を損ねているとぼやいていたボーリング場は後にホテルになり、最近公園になったとのことである。

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 そういえば、津和野が近代以降も人口に比して文化人を多く輩出しているように見えるのは、やはり小京都たる町の文化的蓄積によるものなのだろうか。よく分からない。

野矢茂樹言語哲学がはじまる」

 2023年、岩波書店言語哲学のルーツであるフレーゲラッセル、(前期)ヴィトゲンシュタインを丁寧に分かりやすく解説しており、目新しいことは無くとも理解の整理になる良書だった。ヴィトゲンシュタインの同一性問題への回答(P227〜238)とかも実はよく分かってなかったので良い機会になった。虚構の対象については一貫して傍に置くという形だったので、ラッセルのマイノング批判がどういう話だったかとかもどこかで改めて確認しておきたい。

佐野美津男(文)/中村宏(絵)「ピカピカのぎろちょん」

 1968年、あかね書房。現在絶版になっているディストピア児童文学の名作だが、こちらも国会図書館デジタルコレクションに入架していた。ありがたいことである。

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 「ピロピロ」(素直に受け止めれば革命・動乱を指しているように読める)による不穏な空気が物語の背景に流れるなか、語り手の「アタイ」を始めとした子どもたちはその非日常を楽しんで「ぎろちょん」ごっこに興じる。この辺りのアンバランスが本作の特異さを成しており、中村宏による挿絵がその不気味さを際立たせている(特に本作の表紙は一見の価値がある)。
 また、「アタイ」の一見毒舌で独善的なだけの語りは、実際のところものごとをよく捉えてもいる。

「おとうさんも、おかあさんも、ピロピロは自分たちに関係ないんだ—と思い込んでいるようでした。だから、わざとなんでもわからないようにしていたのです。だけど、アタイは違いました。ピロピロは、アタイに関係があるとおもいました。よくわからないけれど、そういう気がしたのです。」(P46-47)

だからこそ、あとがきで大人も子どももみな日常に戻って過去を忘れていくなか、「ピロピロ」によって描き換えられてしまった風景(それが「ギロチン」の不可視化であるというのも率直な隠喩と受け止めてよいように思える)を「アタイ」だけが覚えているのだろう。物語はもう一度風景を描き換えてやるという「アタイ」の決意で締められる。

「いつかきっと、アタイは、黒くて高いへいをこわして、あのなかにあるものを、みんなにはっきりと見せてやろう—と、おもっています。もしかしたら、それが、ほんとうのピロピロかもしれない—と、アタイはかんがえています。」(P156)

 

ゲーム

スナフキンムーミン谷のメロディ」(ネタバレ有り)

 2024年、Hyper Games(Dev.)/Raw Fury(Pub.)。PCでプレイ。ムーミン谷の自由と自然を官憲の手から取り戻す作品。

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各アニメのスナフキンと原作スナフキンとは性格に無視できない差異のあることが有名だが*1*2、本作のアナーキースナフキンからはいかにもな原作スナフキンが感じ取れて好感触だった。
 また(ヘムルがそもそもこだわりが強く融通の効かない生き物だというのもあり)*3公園番の居場所は保証されねばならないということがはっきり示されていたのも良かった(私はこの辺りの設定をニューロ・ダイバーシティの表象と受け止めている)。

破壊された公園番の家の前で、公園番たちとムーミンスナフキンが対話するシーン。ムーミントロールは「まって スナフキン この人は ただ 良いことをしようとした だけなんじゃないかな 自分なりの… やり方でさ」と言っている。

以下の記事も参照のこと*4

www.4gamer.net

 BGMも良質であり、ボリュームが小さめなことが気にならないのであれば万人にお勧めできる。グラフィックについての設定資料集も充実している。
 ところで本作、スナフキンとトゥーティッキの会話があったが、他媒体であまり見た記憶が無い(トゥーティッキがムーミン一家の小屋を借りてる冬季にスナフキンは旅に出てるからだろうか)。他作品でも描写があれば是非知りたい組み合わせである。

「Battle Spirits バトルスピリッツ

www.battlespirits.com

 ディーバブースター出るみたいですね。契約ローズさんは……来ませんかそうですか。ていうかもう10年ですか……。
 あとBoard Game Arenaに海外版バトスピ来たらしいですね(未確認)。

「プリコラージュ-IDOLIZED-」(ネタバレ有り)

 2024年、HIJIKI(Dev.)/Annulus(Pub.)。

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久しぶりの百合ゲーム。トゥルーエンドでほろ泣きし、アナザートゥルーエンドで笑った。ボリュームもコンパクトでサクサク進めたが、エミカを突き放すルートは辛くて選べなかったのでEDはコンプしていない。こうしてADVをやるたびに、「どうなるのか知りたいクセに自分ではできない情けない連中」というフラウィの罵倒が刺さってくる。

 ところで、タイトル画面で座っているのは誰なんでしょうね。

「RONNARIUM」(ネタバレ有り)

 2023年、ハルナノミウチ(Dev./Pub.)。
store.steampowered.com

PCでプレイ。夜の水族館を楽しむ穏やかなお使いゲームだと思っていたら急転直下のEDでびっくりした。2つのEDはどちらもビターエンド気味なのでトゥルーエンドのようなものがあれば良かったなあと思いつつも、これはこれで絶妙なプレイ後感という気もする。

遊戯王 マスターデュエル」

 久しぶりに再開。長らく霊魂鳥神だけを握っていたが、幸魂が追加されたとのことでエクソシスターも使ってみることに。どうにも墓地や除外からポンポン効果発動するのが許せないらしく、リソースがタイトなデッキばかり回すことになってしまう。霊魂鳥影の実装もお待ちしてます。

 

マルチメディアコンテンツ

「Alleles Project/アリルズプロジェクト」

 完結と言うべきか打ち切りというべきか分からないが、定期的なコンテンツ更新が終了した。商業的成功を見た作品ではなかったのは以前から明白であった*5ので驚きは無いが、やはり寂しさはある。かくいう私も蘭笛さんが演じられていなければ追ってなかったわけだが。後述の通りにじホロをほとんど追っていないのも、結局のところ「ReVdol!」(2018〜2021)が私に残した穴が大きすぎるのである。
 ともかく、アリルズは業界全体として商業的に成功しなかった方向性(つまりキャラクターとしてのVtuber)*6*7をこの時代に改めて試みたコンテンツではあったが、そこは私好みではあったし、一見の価値あるものも確かに残したように思う。オンラインライブが無料で観られるので良ければどうぞ。TVアニメの方は、ううむ、どうなのだろう。

youtu.be

にじさんじ

 6th Anniversary shop in 原宿に。にじさんじましろさんのホラゲ配信くらいしか観てない*8のだが、せっかくなので行ってみた。

壁一面に並べられたにじさんじライバーのぬいぐるみ

たまには世間で気を吐いているコンテンツに触れてみるのも良いかもしれないと思えた。
 静凛さんのクリアカードを買った。ましろさんのぬいはかなり迷ったが、ぬいとかフィギュアとか箪笥の肥やしにしがちなので……。

「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク

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 モモジャンきゅうくらりんはしっかりと歌唱とMVで繋がりを描いており、原曲の別解釈という感じになっていて良かった。同時に、ニーゴだったらどうなっていたのだろうかというのも気になる(同じことを「メルティランド・ナイトメア」のときにも考えた。この辺りにボカロシーンにおける無視できない一つの形態を感じることがある)。

*1:記憶が正しければ、私がこのことを知ったきっかけは月刊MOE2009年5月号の美村里江氏によるエッセーだった。

*2:私の知る限りではここの同一カプは相応に人気がある。

*3:

www.moomin.co.jp

中盤に出てくる植物学者へムルと昆虫採集へムルを見よ。

*4:この執筆者何者なのだろうかと思って調べたら以前この記事を書かれていた方だった。

www.4gamer.net

こちらも良い記事である。

*5:休日にアニメイトカフェコラボに行ったら貸し切り状態だったときは流石にびっくりしたが……。

*6:よく言及されている難波優輝「バーチャルユーチューバーの三つの身体:パーソン・ペルソナ・キャラクタ」の表現を借りると、アリルズの場合キャラクタを前面に出すことで潜在化するペルソナを、声優とキャラクタの二重性を強調することで補完しようとしていたようにも思える。結局それは"ペルソナに当たるところだけが薄い"という形態であったようにも見えるが……。

*7:今この方向で軌道に乗せられているところは「LiLYPSE」以外にあるのだろうか。情報求む。

*8:怖いのが苦手なのでホラゲが自分でできないのである。ましろさんとキヨさんにはよくお世話になっている。